ATTARの歴史
語源はペルシャ語の「香り・エッセンス」を意味するitir(イッター)に由来しています。
ナチュラルなATTAR は、サンダルウッド精油をベースにして植物を水蒸気蒸留したものを指します。
サンダルウッドと花などの原料を一緒に蒸留したものではなく、予めサンダルウッド精油が受け器に入っています。
インダス川流域での考古学的調査で約 5000年前の原始的な蒸留器が発見され、水蒸気蒸留による香水作りが早くから行われていたことが示唆されています。またアッターを作るDeg&Bhapka(デグアンドバプカ)法は、この原始的な姿を今に受けついでいると言われています。
Attarの産地Kannaujには
優れた蒸留家たちがいました
ATTARの産地Kannauj(カナウジ)は、ガンジス川の近くに位置し、ガンジスが運んだ肥沃で豊かな土に恵まれて、ジャスミンやベチバー、ダマスクローズの栽培が行われてきました。
皇帝ジャハンギールと妻ヌール・ジャハー
2世紀以前に書かれたアーユルヴェーダの古典医学書「チャラカ・サンヒータ」にATTARが記されており、古くから心身の健康のために使われてきました。
Attarには癒しの力があるとされ、
儀式の際にも重要な役割を果たしていました
16世紀にはムガル帝国がインドに成立し、芸術・音楽・建築・詩・香水などのペルシャ文化とインドの文化を融合させました。
皇帝ジャハンギールとその妻、ヌール・ジャハーンは、ATTARの香りを大変気に入り、お風呂にローズアッターを入れる魅力に夢中になり、大流行させました。
貴族をはじめ一般市民も肌や髪や衣服などあらゆるものに香りを付けたといわれています。
約400年前に確立された蒸留方法がいまでも変わらず続けられています。
銅製の蒸留器を、木や牛糞をくべた火で熱するという職人技が特徴で、ゲージやメーター、電力は使用しません。
ヒンドゥー文化において、牛は神聖なものであり、その糞は儀式で火を燃やす際に神聖なものとして重用されてきました。
その視点からも、単に燃料としてではない価値を見出すこともできます。
重要なポイント
●高品質で新鮮な花を大量に使用すること
●おだやかな圧力で長い時間をかけて蒸留すること
低温低圧でおだやかに蒸留が行われることで、熱に弱い花びらの香りを取り出せる。熱が強すぎると水分がすぐに蒸発し、花が焼けてサンダルウッドの香りが損なわれる。
●蒸留の過程で、花の香りの分子とサンダルウッド精油をうまく混ざり合わせること
① Deg デグ (銅製の蒸留窯)
②Bhapka バプカ(受け器)
③Chonga チョンガ(竹製のコンデンサー)
その他、伝統的な bhatti バッティ(炉)/Gachchi
ガッチ(冷却水タンク)/Kuppi クッピ(革製ボトル)
1 .②Bhapka(バプカ/受け器)にベースとなるサンダルウッド精油をあらかじめ入れる。
2.①Deg(デグ/蒸留窯)に植物を入れて、上から新鮮な水を入れる。蓋をする前に、粘土と綿を混ぜたものを縁に塗りこめることで、蓋が密閉される。
3 .花を含んだ水が沸騰し始めると、③Chonga(チョンガ/竹製のコンデンサー)を伝って蒸気が流れ出て②Bhapka(受け器)に入る。サンダルウッド精油が花の芳香を吸収し、二つの香りがまざりあっていく。
職人は冷却水の温度を手で確かめ、
蒸気の音に耳をすませて火加減を判断する。
その技術を習得するのに長い年月が必要とされます。
この工程にかかる時間は5時間から8時間ほど。翌日以降も花が加えられ、理想の濃度になるまで同じ工程が繰り返されます。
植物の性質によりますが、約2週間繰り返し蒸留します。
その後、吸湿性に富んだ Kuppi (クッピ/革のボトル)に入れられ、余分な水分をとりのぞき何カ月間も熟成されます。
水蒸気蒸留されるローズ精油(ローズ・オットー)同様にローズ・アッターもとても高価で希少なものです。
1kgを作るためには何トンもの膨大な量のバラが必要です。日の出にダマスクローズの花を手で摘み、すぐに蒸留所に送りその日の内に蒸留されます。
一滴の背景にある人々の労働や植物の命に想いをはせつつ恩恵を受けとっていきたいですね。